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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3957号 判決 1993年5月26日

長野市稻里町中氷鉋字上荒沢四三五番地

控訴人

協全商事株式会社

右代表者代表取締役

平森典相

右訴訟代理人弁護士

永田泰之

長野県中野市大字片塩三四五番地

被控訴人

田中技研工業株式会社

右代表者代表取締役

田中新司

右訴訟代理人弁護士

赤尾直人

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた判決

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要及び証拠

当事者双方の主張の要点は、原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用し、証拠の関係は、原審及び当審における書証目録並びに原審における証人等目録の記載を引用する。

第三  当裁判所の判断

一  争点2について

1  前示当事者間に争いのない本件登録実用新案の構成要件Gの示すとおり、本件登録実用新案においては、キャップを送り出すベルトと各仕切りバーの上端との間隔をキャップの直径よりやや短くすることが要件とされている。

これに対し、被控訴人が製造販売していること当事者間に争いのない本件装置においては、ベルトが案内プーリ172に張着している部位において下方に張り出す構造となっており、これに加え、第三列目と第四列目の各案内レール枠の間の下側レール枠の上端が他の下側レール枠の上端より低く設けられていることから、キャップを送り出すベルトと各案内レール枠の下側レール枠の上端との間隔は均一でなく、最も短い部位(案内プーリ172にベルトが張着している部位)及びその付近においてはキャップの直径よりやや短い間隔となっているものの、その余の部位においては、キャップの直径とほぼ等しいかそれより長い間隔となっている(原判決添付各物件目録の第3図、第6図参照)。

ベルトによるキャップの横送り機構につき本件登録実用新案と本件装置との間に見られる右相違は、キャップをベルトにより横送りする力をどこに求めるかについて両者の発想が異なることに由来すると認められる。

すなわち、本件登録実用新案においては、キャップを送り出すベルトは、各仕切りバーの上端との関係において、すなわち、一部の仕切りバーの上端との関係においてでなくすべての仕切りバーの上端との関係において、両者の距離がキャップの直径よりやや短くなる位置にあることを要するとされていることから見て、キャップは横送りされている間最後まで常に回転しているベルトと接しており、キャップの横送りは、どの段階を取っても、当該キャップに常に接している回転中のベルトからキャップに加わる力でもって行われる構成を必須の要件としていると認められ、このことは、以下に述べるとおり、本件登録実用新案が登録された経緯に照らし裏付けられるところである。

成立に争いのない甲第一号証、第九号証ないし第一二号証によれば、控訴人が本件登録実用新案の出願につき拒絶査定を受けて、昭和六二年九月二四日にこれに対する不服の審判を請求するとともに提出した同日付け手続補正書により補正した明細書によれば、前示構成要件Gに対応するクレームの記載部分は「一方の走行面が、上記整列板の偏平部に横方向に沿い且つ案内路が一杯になったときキャップに接触する位置で回転するベルトが設けられた」とあり、この要件を説明する明細書の考案の詳細な説明の欄の記載部分は、「全てが満たされているある案内路13の上にキャップAが落下した場合、キャップAは偏平部15上にとどまることになるが、偏平部15の上端16には整列板6の面からその上走行部がやや上に位置するベルト18が回転しており、そのベルト18から案内路13までの幅はキャップAの直径より短くしてあるので、案内路13内に入れないキャップAは、その上方の一部をベルト18上に接触しつつ、ベルト18の移動方向に偏平部15上を回転しながら移動することになり、空いている案内路13があればそこに滑り落ちる。」(甲第一〇号証明細書九頁一八行から一〇頁九行まで)であったこと、このクレームの記載につき平成元年一一月二一日付け拒絶理由通知書において「登録請求の範囲の記載が不明りょうである」と指摘されたので、同年一一月二二日付け手続補正書により、右考案の詳細な説明の記載部分はそのままとし(甲第一二号証明細書一〇頁一行から一二行まで)、右クレームの記載部分のみを「送り側がキャップ整列板の偏平部のレベルよりやや高くされ且つ各仕切りバーの上端からキャップの直径よりやや短い間隔を空けて偏平部を横切るベルトを設けたことを特徴とするきのこ培養びんのキャップ冠着装置」と補正し、本件登録実用新案は、この補正した明細書に基づき出願公告され、登録されるに至ったことが認められる。

この明細書補正の経過によれば、先の補正によるクレームは、ベルトを設ける位置を各仕切りバーの上端位置との関係において規定せず、「案内路が一杯になったときキャップに接触する位置で回転する」と機能的表現で広く規定していたのに対し、後の補正によりこれを考案の詳細な説明欄の前示「そのベルト18から案内路13までの幅はキャップAの直径より短くしてあるので、案内路13内に入れないキャップAは、その上方の一部をベルト18上に接触しつつ、ベルト18の移動方向に偏平部15上を回転しながら移動することになり」に適合させ、限定して規定したことが明らかである。したがって、本件登録実用新案は、キャップの横送り機構につき、キャップに常に接している回転中のベルトからキャップに加えられる力でもって行われる構成を必須の要件として規定したものと解するほかはなく、本件全証拠を検討してもこの認定を覆すものは見出せない。

これに対し、本件装置においては、キャップの横送りが当該キャップがベルトと現に接することからキャップに加わる力により行われるのは最初の一部の段階のみで、多くの段階においては右力以外の力のみで行われるものとされていることが、前述のその構成自体から明らかである。したがって、本件装置のベルトによるキャップの横送り機構は本件登録実用新案の構成要件Gに該当しないといわなければならない。

控訴人は、本件装置の右機構は本件登録実用新案の横送り機構と作用効果において格別の差異はなく迂回方法にすぎないと主張するが、本件登録実用新案のよって立つ発想と異なる発想に基づき、本件登録実用新案の構成と異なる構成を採用した本件装置の横送り機構を単なる迂回方法とすることはできず、控訴人の主張は採用できない。

2  右によれば、本件装置は、本件登録実用新案の構成要件Gに該当する構成を有しないから、その技術的範囲に属するということはできず、したがって、控訴人が本件登録実用新案権に基づいて被控訴人による本件装置の製造・販売を差し止める権利を有しないことは、その余につき論ずるまでもなく明らかである。

二  争点3について

控訴人が、平成二年一月一八日ころ、被控訴人の得意先である訴外ホクト産業に対し、被控訴人の製造販売する「自動キャッパー」が本件登録実用新案の技術的範囲に属する旨警告したこと、また、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人の製造販売する本件装置が本件登録実用新案の技術的範囲に属し、したがって控訴人は被控訴人に対しその製造販売の差止めを請求する権利を有すると主張していることは、当事者間に争いがない。

そうだとすれば、仮に、控訴人主張のとおり、控訴人が右警告を発したときには被控訴人の製造販売する「自動キャッパー」が本件装置と同一の構成でなく、かつ本件登録実用新案の技術的範囲に属するものであったとしても、本件装置が本件登録実用新案の技術的範囲に属するとの見解に立つ控訴人が、今後その旨を被控訴人の得意先等に述べるであろうことは十分推認できるところである。本件装置が本件登録実用新案の技術的範囲に属するものでないことは前示のとおりであるから、控訴人が今後も右の旨を陳述又は流布すれば、それは、控訴人と競争関係にある被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実の陳述又は流布に該当することは明らかであり、これにより被控訴人の営業上の利益が害されるおそれがあるということができる。

したがって、被控訴人が不正競争防止法一条一項六号に基づいて控訴人の右行為の差止めを求める請求は理由がある。

三  結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求はいずれも理由があり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

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